THE INSECT HUNTER
2008
0504
長野

THE INSECT HUNTER 2008

               
      
五月晴れと酢実の花






   
今年もまたゴールデンウィークがやってきた。

待ちに待った日がやってきた。


思えば昨年、現地の状況も採り方も知らずに乗り込み惨敗を喫した。

もちろん、二度や三度の挑戦で採れるものとは思っていない。


今年も経験値を積むための実地訓練のつもりだ。

当然実物を見た事など無い。

だから、実物を見てイメージを脳裏に焼き付けるのだ。


行けば、きっと誰かが採って、それを見せてくれるに違いない。

実物をこの目で見る事が目的だから、それでもよい。

でも・・・

でも、やはり、できれば、自分で採ってみたい。

自分で採って自分の目で確認してみたい。


万が一、自分に採れるとすれば

それは単に、運命の悪戯なのだろうけれど

     
 
 
性懲りも無く、また来てしまった・・・。

どうせ採れりゃしないのに、こんなに遠くまでわざ

わざ来てしまうのは、採集・・・それも捕虫網を使う

本格的な採集シーズンの幕開けに相応しいイベント

に、お祭り気分で参加したいだけなのかもしれない。

わざわざ新調した捕虫網を使って、春一番に咲く花

をこの手で掬ってみたいだけなのかもしれない。
捕虫網を使う採集は本当に気分が良い。気持ちが晴れ々とする。崖を掘ったり、材を拾ったりするのも

楽しいけれど、捕虫網を使う採集はやはり、理屈を抜きにして昆虫採集の王道なのだ。

どうせ採れりゃしないけど、網を振って、あるいは掬って、中に入ってる虫を確認する瞬間が好きだ。



                  あの胸の鼓動が高まる瞬間が好きだ。



あの瞬間を早く味わいたいがためだけに・・・・また来てしまったのかもしれない・・・。
   

    
   
もうすぐ目的地だ。

先行して現地に到着している るどるふさんがいる

はずの場所に向けて、びおすけ号を走らせる。

トンネルを抜けてしばらくすると、かつての「御神木」

が目の前に現れる。助手席の うめちゃんに

これが「御神木」であった事を伝え、そのまま先へ

急ぐ。

時間が早いせいか、その御神木に張りついている

人は一人もいない。人気の無い花も盛りの御神木

が少し寂しげに見えた。



その先のカエデにもまだ人が張り付いていない事を確認しつつ、るどさんが待つ場所に到着。

探す間もなく、るどさんがひょっこりと現れた。


うめ・びお 「おはよすー」

るど 「おはよすー」


いつも飄々とした風情の るどさんが、いつもに増して飄々としているように見える。今までの経験

からして、こういう時の るどさんはいつもに増して気持ちが高まっているはずだ。

無理も無い。狙っているのは「ツジウス」なのだから・・・。


昨年と打って変わって、今朝は早くから青空が広がり、気温も高くなりそうで良い採集日和だ。

早速、今日の予定を打ち合わせる。ツジウスはヤマナシ・モミジ・ズミなどこの一帯に咲く花全てで

採れる可能性がある。去年探した場所を見てみようという意見も出たが、結局範囲を広げて行った

事の無い場所で探してみる事になった。


ツジウスの採集は最初の場所決め如何で結果が左右されると言っても過言ではない。

限られた本数の「花の咲いている木」に誰もが思い々に張り付くからである。いわば「場所取り」。

幸いな事に今朝見た限りでは他の虫屋さんの動きはまだないようである。



善は急げ、とばかりに びおすけ号で移動を開始した。

   
 
  

先に進むと、道端に見覚えのある虫屋さんが車を止めていた。るどさんのお知り合いで、びおすけも

F林道でお世話になった事のあるMさんであった。立ち話をしているうちにMさんのお仲間もみえて、

有難い事にご一緒させていただける事になった。

ご厚意に甘えてMさんたちに付いていくと、目の前に「素晴らしいズミ」が現れた。


今日はこの「素晴らしいズミ」が我々の御神木となるのだ。


皆さんの採集スタイルを拝見すると、ネットの径が非常に大きい事に驚いた。びおすけは50cm径を

使っているのだが、Mさんたちのは80cm径はあろうかという大きさだ。当然、竿も非常に長い。

ズミの枝つきを見ると枝が広がる樹形なので、確かに50cm径では枝にすっぽりかぶせる事は困難

だと思われた。このあたりは皆さんが経験から得たスタイルなのだと感心してしまった。 

    
花はまさに今が盛りとばかりに満開状態。

花付きといい、大きさといい、場所といい、全くもって

申し分のない「素晴らしいズミ」である。

時間がまだ早いので、採集の準備などをしつつ、

周囲の写真などを撮って過ごす。

まだ気温が低いため花のまわりを飛ぶ虫の姿も

見当たらない。

     

   
「素晴らしいズミ」の付近を歩いていると背後にはアカマツが林立していた。

前に月刊○しの記事でツジウスをアカマツ材で羽化させた事が話題になっていた。これについては

いろいろと意見があるようだが、現実にアカマツで羽化しているのなら、これがホストの「ひとつ」と

なっている可能性は高い。虫が飛ぶようになる時間までアカマツ材を拾って歩く事にしたがアカマツ

に混ざってカラマツも多いため、落枝だとどちらの枝だか迷う。カラマツも枝が赤っぽくなるものがある

ためである。 半信半疑のまま適当に枝を拾い、車中に準備しておいた衣装ケースに放り込んだ。

(※ その後、カラマツもホストであるらしい事を知りました)
    

   

    
時間は7時半をまわり、そろそろ虫が飛ぶ頃だ。

前日にすでにツジウスを採集されているMさんの

お話では、昨日は朝のうち雲っていたためツジウス

が出現したのは晴れはじめた11時頃だったという。


まだ時間はあるようだが、この時、びおすけには

ひとつの考えがあった。

  
 
その考えとは、ツジウスが飛来しそうなポイントについてなのだが

(1)花は強い直射日光が当らない半日影の位置

(2)ホスト(と言われている)のアカマツ林の位置

(3)強い風が当らない位置。また、風向き。

(4)使用するネット径に相応しい枝がある位置。

の4つである。


(1)は以前採集された事のある方のコメントで、採れたのがわりと日影の位置であったという事。

(2)は飛翔能力がどれくらいかはわからないが、ホストに近い位置が良いのではないかという事。

(3)はヒゲナガコバネ全般に風に弱そうな事、およびホスト方向からの風に乗ってきやすさという事。

(4)は びおすけの50cm径のネットでは枝にガバッとかぶせるのは無理なので、「ちまちま」と掬える

  小さな枝が多い部分という事。


コジマやコボトケなどは、わりと突出した枝先の花から採れる事も多いので、何とも言えないが、ここは

ダメ元で自分の考えに従ってみようと思い、「素晴らしいズミ」のまわりでそのような条件に当てはまる

場所を選んで立ち、虫の飛来を待つ事にした。

 

 
時間が8時になって、そろそろハエ・アブ・ハチが

飛び回るようになってきた。蝶もタテハ類やスギタ

ニルリシジミなども飛んできているようだ。

最初のカミキリは るどさんが採ったヤマトシロオビ

トラであった。これに皮切りに全員竿を伸ばして花

を掬いはじめた。びおすけの網にもヤマトシロオビ

トラが入った。
   

ヤマトシロオビトラは他の地域ではわりと珍しい部類に入ると思うのだが、

このあたりではやたらと数が多い「普通種」になってしまっているようだ。

最初こそ感激したものの、それも段々と薄れてきてしまう。




 それは突然の出来事であった。



時間は8時半。びおすけは相変らず自分の選んだポジションで花を掬っていた。

手元に網を戻して、網の中を覗き込んだ。 びおすけの一番好きな瞬間。


網の底を1頭のカミキリが走り回っている。動きが非常にせわしない。





一瞬、アカネカミキリに見えた・・・



なんだ〜・・・アカネかYO! 








つまんで目を細めてよく見てみる。

いや?アカネと違う?



ヨコヤマトラ?白帯がない。違うなぁ〜??




これって自分見たことない虫? その瞬間、図鑑で見たイメージと記憶がリンクする。






「えっ!?まさか!?」







いつもであれば 「キターーー!!」と雄叫びが出るのだが、あまりの事に声が出ない・・・。

でもみんなに知らせなきゃ・・・。









「ツジ・・・キタ・・・・」   声を絞り出すのがやっとだった。



ツジヒゲナガコバネカミキリ
Tsujius itoi K.IKEDA,2001

  
このあたり記憶があやふやだが、るどさんやMさん

たちが駆け寄ってき来て、見せて、祝福のお言葉を

頂いたと思う。自分はふらふらとそのポジションから

はずれて「素晴らしいズミ」の全景を見渡せる場所

まで移動し、へたりこんだようだ。


他の人たちが猛然と花を掬うのを見つめながら・・・。

   


  
びおすけがツジウスを採ってから1時間半も経った

頃だろうか。

今度は るどさんにその幸運がやってきた!自分と

同じく「素晴らしいズミ」の裏手を掬ってゲットした。

おめでとう!>るどさん

びお 「蓋あけて写真撮らせてよ(爆」

るど  「じょ・・・冗談じゃないよ(汗」

るどさんも一見、沈着冷静を装ってはいるが、動揺は隠せないようだ。採れたのは、びおすけと同じく

♀個体であったが、それとほぼ時を同じくしてMさんのお連れの方が、あろう事か♂を2頭同時に採集

されたのには驚いた! ♂は♀よりも採れる数が少ないというのに、何という幸運だろう!

毒ビンの中を撮らせていただいたのだが、うまく

写ってなくてすいません。

♂は♀に比べて体も大きく触角も長く、非常に

格好が良い! あろうことか 「アカネカミキリ」

をイメージしてしまった♀と比べたら、いかにも

「ヒゲナガコバネ」らしい格好良さが感じられる。

ただこの♂については、よく陽の当る側で採れた。

と、言っても、まともに陽の当る枝先ではないらしいのだが、ネット径が大きいので、どこらへんを掬った

ら採れたのかは非常にわかりにくい。

このように短時間でまとめて採集されるという特徴をツジウスは持っているらしい。


この「素晴らしいズミ」には、その後、Iさんをはじめ数名の方々が訪れ、最高時で9人が網を駆使した

ものの、自分たちの知る限りでは、これら2♂♂、2♀♀が採れた以降は、残念ながらツジウスは姿を

現さなかったようだ(もし、その後追加があった場合はお教えいただけたら幸いです)。

(5/6:その後の追加につきまして、2♂♂を採集されたK様がその後1♀を追加採集されていたとの
    事です。スゴ過ぎです!! キャラメル様よりご連絡いただきました。有難うございました)



この日は他の場所でも1頭採れており、それと合わすと当日は合計5頭6頭が採集されたらしい。

 

   

 
人間とは、よほど業が深いに違いない。


びおすけと るどさんは幸運にも♀をゲットしていなが

ら、間近で♂を見てしまったために、どうしても♂が

欲しくてたまらない。

午後は別のポイントを見るべく、「素晴らしいズミ」の

元を離れ、さらに奥を目指した。

 
川沿いを進むと、所々にズミやサクラ類の花が咲い

ている。しかし、どれも「素晴らしいズミ」と比較する

と花付きはイマイチという感じだ。

午後になり気温も上昇。歩くだけで汗が噴き出して

くるような暑さになった。さすがの うめちゃんも疲れ

が出てきた様子。

   
そんな うめちゃんがミヤマカラスアゲハをネットイン。

春型は小型だが非常に美しい。


蝶は他にもミヤマセセリやクジャクチョウ、スギタニ

ルリシジミなどが見られ、春の息吹を感じさせた。

  
先へ進むものの、時折カエデノヘリグロハナなどが

採れるくらいで目ぼしい花を見つける事ができない。

カエデノヘリグロハナも他の場所では「良い虫」な

のだが、ヤマトシロオビトラと同様、この場所では

普通種なのだという。

  
さらに進むと、遠目でも目立つ白い花を咲かせた

木があった。花付きがモコモコした感じでプードル

をイメージさせる。どう見てもスモモのような気が

するのだが、なんでこんな場所に1本だけ・・・?

ところが、見るとものすごい数の虫が乱舞している。

下手なズミよりも集虫力が強そうだ。

このスモモ(?)には、カエデノヘリグロハナ・ヒナルリハナ・キバネニセハムシハナ・ピニボラなどが

訪花し、中でもヤマトシロオビトラとミヤマルリハナの数が非常に多かった。


しかし・・・当然ながら、ツジウスの姿は見られなかった・・・。






こうして、我々の本日の採集は終了した。

先輩方のお導きによって、また偶然にも幸運に恵まれ、ツジウスを採集させてもらう事ができた。

うれしいに違いないのだが、喜びよりもむしろ他の虫屋さんに申し訳ないといった感情が強い。

先輩方や「素晴らしいズミ」に感謝の気持ちで一杯です。

るどさんや びおすけがツジウスを採集した噂が、午後には現地ですでに広まっており、祝福の

お言葉を頂戴したりして、たいへん有難く、かつ、恐縮した。


こうして、久々にお会いした方と話したり、他の虫屋さんたちにご挨拶をしながら、

万感の気持ちを胸に抱きつつ、帰途についた。
 

   

  
ツジウス その後・・・

  
GWの採集帰り・・・・。

渋滞もさることながら、採ってきた「生き虫」の状態が気になって仕方がない。

今回も案の定、渋滞に巻き込まれるわ、暑くて車中の温度が上がるわで、せっかく採集したツジウス

をどう生かして持ち帰るかだけで頭の中は一杯であった。

車中はエアコンを効かせ、出歩く時は一緒にケースごと携帯したりしてなんとか、家に持ち帰ったもの

の、ツジウスは想像以上にバテており、採集した時の元気の良さは微塵もない、死の一歩手前状態。

こりゃ、もうダメか?と思った。

 
そこで試しにティッシュに湿らせたスポーツドリンク

を与えてみると効果抜群であった。

かぶりついて30分は離れなかった。

そうか・・・喉が渇いていたんだね〜・・。ごめん。

スポーツドリンクを飲んだ(?)後、ツジウスは急に

元気を取り戻してケースの中をせわしなく歩き回る

ようになった。すごい回復力である。

  

 
さて次は、材のセットである。


皆さん、ご承知の事と思うが、びおすけは材採りや飼育が非常に下手である。

にもかかわらず、無謀にも採卵しようと企てたのだ。おそらく失敗するのは目に見えているが、せっかく

メスを採集できたのだから、ここはひとつ試してみようと思うのが人情というものだ。


とりあえず現地で採ってきたアカマツと思われる(?)材をケースに入る長さにカットして数本入れた。

ケースはいわゆる飼育用のプラケースの大というものだ。 現地で材を放り込んだ衣装ケースの中

にそのままツジウスを入れてしまっては、こんな小さな虫1匹、もうどこへ行ってしまうかわからない。

常に監視(?)できるように小さなケースに材を移し変えたのである。


材をセットしてしばらくすると、もともと落ち着きの無いツジウスは、さらに落ち着きがなくなり、材の上

を走り回っている。 いきなり止まったかと思うと、樹皮の裂け目の部分に尻をあてている。

よく見てみると産卵管を伸ばしているではないか!拍子抜けするほどあっさりと第一関門突破である。
  
樹皮の裂け目に産卵する行動をした後、スポーツドリンクのティッシュに戻り、しばらくなめた後、また

材の表面を触角で確認するような仕草をしながら、また樹皮の裂け目に尻をあてがう、といった行動を

繰り返していた。

ここまでくれば、後はもう、運を天にまかせてしばらく様子をみるしかないであろう。

そう・・・あまり期待せずに・・・・ね?!



(※ 結果的には産卵は成功しませんでした)
   

   

  
    

  


 

 


     
    


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