THE INSECT HUNTER
2006
0505+0506
神奈川・山梨
THE INSECT HUNTER 2006


   
                 


        
ルリクワ系探索シリーズ〜困惑のホソツヤ



その日、突然思い立った。 「そうだ!○○山に行ってみよう!」

そこにはブナ林も残っているらしく、「一度は行ってみよう!」とずっと考えていた場所である。


びおすけのホームグラウンドは神奈川県であり、当然、県内の甲虫のファウナには興味がある。

神奈川昆虫談話会発刊の「神奈川県昆虫誌」という県内の全昆虫を目録としてまとめた大書が

あるが、その内容たるやもはや偉業とも言える素晴らしいもので、現在、びおすけのバイブルと

して必要不可欠な資料集である。その日も、その本を開いて、ある虫について調べていた。


その虫とは ルリクワガタ属 Platycerus である。


最近、びおすけのマイブームな虫であるルリクワガタ系。びおすけのような素人には採集が困難

な種類ばかりではあるが、その魅力は計り知れなく、産地別の各種を比較してみたいという欲望

は日に日に増すばかりである。いずれは四国や九州にも飛んで行きたいが、まずは足元からと

いうわけで、近県から攻めていきたいと考えている・・・・。


さて、突然行こうと思い立ったその山について調べると、どうもホソツヤルリクワガタのみが記録

として残されているようだ。 「いいっすね〜!ホソツヤ!」

最近、タイプローカリティーなホソツヤを求めてしつこく通っているので、ご承知とは思いますが・・

            ハッキリ言って大好きです、ホソツヤ。


そして時期は、早、GW。材から割り出すには、もうラストチャンスである。今行かねば・・・・。

    


         
0505
   
     
気持ちの半分は、来期に向けての下見のつもりであった。

はやる気持ちを抑えつつ、びおすけ号で目的地まで一目散。 さて、現地に到着してみると、

「・・・・ここでルリ系採れるのか・・・・??」

周囲は疎林ばかりで虫自体がいる気配がない。 ともあれ、付近を探索してみる事にした。

雑木の枝先には新芽が出てたり、出てなかったり・・・。微妙な時期に来てしまったのか?
 
もしかしたら新芽に虫が来てる

かも?とネットも用意してきたが

持ち歩く必要はなさそうである。

枯枝についているかもしれない

産卵痕を探しながら歩く。
あっという間に疎林も過ぎてしまい、見渡す限りの枯れ野原・・・。これじゃ虫いないよ・・・。

早くも 「やる気ゲージ」の針がグ〜〜ンと限りなくゼロに下がっていく。 「帰ろかな・・・」


ふと、横を見ると・・・


  
おおお!気分を一新させる雄大な眺め! なんだか少しやる気が出てきたYO!
     
   
来た道を戻り、車を止めた背後

の山を見ると、「あれれれ?」

なんだかこっちの方は良い雰囲

気ではないですか!

ちゃんと確認しないとダメですね

〜・・・・。

  
はやる気持ちを抑えつつ、林へ

と入って行く。入ってすぐにブナ

がある事に気づく。「おお〜!」

笹の林床を少し歩くと、そこには

一面、ブナを主体とした林が

広がっており、すでに多くの樹々

の新葉は展開していた。

 
さて、目的のホソツヤはいるのだろうか? まずはホソツヤ材を探す事から始まる。

今までたった数回の経験しかないが、ホソツヤ材はどんなものかはある程度わかっているつもり

なので、自分の頭の中のイメージにある材を探す。ただ、イメージ通りにならないのがホソツヤ材

探しの難しいところでもあるのだ。 実際探してみてもイメージ通りの材はなかなか見つからない。

びおすけのイメージするホソツヤ材とは

@樹種は問わず Aやや細めで Bほど良い湿り気 C株立ちの木の股にある D宙ぶらりん

・・・・といったところである。

まずは幼虫だけでも確認したい。話はそれからである。
 
以前の経験からヤマブドウの蔓

にもけっこう幼虫が入っていた

ので、ここにも多く見られるヤマ

ブドウも要チェックである。しかし

意外と枯蔓は少ない。チェック

してみるとカミキリの幼虫はいる

のだが・・・。
    
ふと、地面に転がっている材を手にとってみると


     
おおお!産・卵・痕!!

   
材を削ってみると出ました幼虫!

   「やった!見つけた!」

とにかくホソツヤが生息する事

だけは確認できた。

さて、ここからである。

幼虫が確認できたからには成虫

も当然いるはず!

 
しかし、成虫がなかなか出ない

のがホソツヤ採集の醍醐味?

である。ここからが長い勝負。

いそうな材の雰囲気はつかめた

ので、それっぽい材は見つかる

のだが、もう抜け跡だったり・・・

   
やっぱり出るのは幼虫だったり。


少し気分転換した方が良さそう

である。
    
 
この林の中に「成虫材」は必ずあるはず! だけど・・・・。


    
いかにもオサムシが越冬してそう

なフレークが点在している。

オサムシまでは予習してこなか

ったので何オサが出るかわから

ないけれど・・・。
    

   
おお!出てきた!

何オサムシでしょうか・・・・?
   

  
ひっくり返して見てみると

ホソアカガネオサムシであった。

後で調べたところ、神奈川県で

は丹沢でしか記録がない!

・・・・が、残念ながら採れた位置

的には山梨県側であった・・・。

もうちょっと東で採れれば・・・。

ホソアカガネオサムシ
Carabus (Carabus) vanvolxemi vanvolxemi Putzeys,1875

2♀ゲット。びおすけ的には群馬県でしか採った事がなかったので、チョイうれしい・・・。

 
  

ブナ林ではよく見かける

ヒサゴゴミムシダマシ。

後でルーペで見ていて気づいた

のだが・・・・。
       
一見、普通のヒサゴゴミダマ

なのだが・・・。

Carabus (Carabus) vanvolxemi vanvolxemi Putzeys,1875

    
この種の特徴である、前腿節

内縁中央の棘状突起が変だ。



通常だと針のように尖るのだが

近似種のツヤヒサゴゴミムシダ

マシのように歯状突起となり、

まるく突出しているだけである。
ツヤヒサゴは各地で種の分化が起きているが、ヒサゴは全国同一種となっている。 とはいえ、

地域によっては変異もそれなりにあるのかもしれない。
   


    
さて、ホソツヤ探しに再チャレンジ

である。歩き初めてすぐ半分落葉

に埋もれた材があったので、

何気にナタで削ってみると・・・

  
・・・・・・・・・

  
ホホホホ・・・ホソツヤ!! キタコレッ!!
     
 
やった! 記録通りにホソツヤいました! 確認できるとほんとにホッとします・・・・。

それにしても、散々探した挙句に、採れる時は実にあっさりと採れるもんですね。ちなみに場所的には

神奈川県側になります。


どれどれ、ケースに入れてじっくりと拝ませてもらいましょうか・・・。

これが楽しみでやってるようなもんでして・・・。ウヒヒヒ・・・・。


ん〜・・・どれどれ・・・。


ん?

んん?



んんんんんんんん??!!

 


   
アレレ? 何か感じが違うっ!?




  







ちょっとひと息・・・・。



 

 
  
  
0506

  
びおすけの頭の中は混乱していた。

「あれれ?これってホソツヤ? なんか違う感じだけど、でもここにはホソツヤしかいないはずだし・・・。

まさかコルリって事ないよな?? あれ?なんだかワケわかんなくなってきたYO!」


ここが素人の悲しさ・・・。少し変わったモノが出ると、もう大混乱である。今まで少ない経験とはいえ、

ホソツヤもコルリも採集体験済みであるにもかかわらず、すでに両種の見分けがつかなくなっている。


自宅に戻ってから、あるだけの図鑑を読み直し、標本箱を引っ張り出して今まで採集した標本と比較

してみる。それでもわからない。頭から採れたのはホソツヤと信じ込んでいるので、どう見てもホソツヤ

に見えてしまう。だけど純粋なホソツヤではない。・・・・もしかして雑種!?

う〜〜ん・・・・この個体は一体・・・?


これはもう一度現地に行って確認する必要がある。

ハッキリと「ホソツヤ」とわかる個体を採集する必要がある。そして比較するのだ。もしかしたら地域的

な個体変異かもしれないじゃないか。

しかし、採集下手な びおすけ一人では不安なので、ホソツヤ採りの上手な うめちゃんを誘ってみよう。

ホソツヤと聞けばじっとしてはいられない性分の うめちゃんをうまくたらし込み、約束をとりつけた。

そんなこんなで 連日のホソツヤ探しと相成った。


   
昨日は快晴であったのに、今日

は打って変わって 曇り空。

っていうか、霧がスゴイ。

    
昨日は気づかなかったけど、

なんかこんな看板あるし・・・。



とても一人じゃ怖くて林に入れ

なかったよ・・・。

   
なんか視界が・・・・


しかし怖がってばかりもいられな

いので、うめちゃんとホソツヤ探し

を始める。

    
材の目星はついているので、それ

を多く見つける事ができるかが

勝敗のカギを握っている。いる事

はわかっているのだから、冷静に

冷静に・・・・。


すぐに幼虫は見つかるのだが・・。

 
産卵痕も昨日より多く確認でき、

けして数は少なくないとは思うの

だけれど・・・。

うめちゃんは感覚がいまいち

つかめない様子で、苦戦している

模様だ。

 
びお 「ほらね。こういう地面に
    落ちてるような材だよ」

うめ 「う〜〜む。そうなんだ・・」

ここで賢明なみなさんはお気づきの事と思うが・・・・・。

この時 びおすけは自分で誤ったアドバイスをしている事に気づかなかった!


ホソツヤを探しているんだろ? なんで地面に落ちてる材を探す? それってコルリ材じゃないか!?


昨日、成虫が採れた材が頭に焼き付いているため、そのイメージから逃れられなかったのだ。


「この場所にはホソツヤしかいない。そしてそのホソツヤが入っている材は地面に落ちている」

もはや、「既成概念・勝手な思い込み・手元にあるだけの情報」に囚われていたのだ。

 
材はそこそこ見つかるが、産卵痕

があっても中身が空の場合も多く

また、いても幼虫ばかりである。

 
産卵痕は次々と見つかるのだが

  
成虫はいっこうに出てくる気配が

ない・・・。

   
うめちゃんも徐々に幼虫を見つけ

はじめたようだ。

その調子で成虫も頼んだよ!



うめちゃんは捜索範囲を広げる

ため山頂に向かって行った。

 
びおすけ はと言えば、相変わらず

幼虫ばかりで成虫は×・・・。



ケースの中は幼虫で満たされて

いく・・・。

  
う〜・・・また幼虫だ・・・。


疲れて一服しているところへ

うめちゃんより携帯で連絡あり。


「何!?成虫採れたってか!」

 
どうやら1♀採れたとの事。



♂が本命だが、ここの♀はまだ

見ていないし良かった・・・・。

   
山頂から下ってきた うめちゃん

から獲物を見せてもらう。

う〜ん、この体の張りと色彩は

間違いなくホソツヤの♀!

やったね、うめちゃん!

その勢いで♂も頼む!
  
    
成虫が入っていた材は立木に寄りかかっていたボロッとした材であったそうだ。

んん・・・その状況からして間違いなくホソツヤ材・・・・。


でもなんで、おいらは地面に落ちてる材を探しているのだ?? それってコルリ材なのでは・・・。

 
頭がまた混乱してきた。

そういう時にはオサ堀でもして

心を落ち着かせるに限る。


フレークから掘り当てたのは

ルイスオサムシ。

 
同じフレークから・・・・


ホソアカガネオサムシ。

  
他にもいた。


頭をのぞかせている

ホソアカガネオサムシ。

昨日に引き続き2♂♂、1♂ゲット


  
左:ルイスオサムシ

右:ホソアカガネオサムシ






   
さて、ホソツヤ探しに戻るとしよう

・・・・・。

少し頭を整理して、今度は純粋

なホソツヤ材を狙ってみる。



株立ちの木の股・・・・。

 
クッキリと産卵痕のある材・・・。

かなりボロボロで、ナタを使わず

手でひねるだけでバラバラ崩れる

ような材だった。


ベキッと手で折る・・・。

 
ああああああ・・・・・

 
完璧なホソツヤの♀・・・・

 
他にもいないかと、手で崩すと

ポッカリと開いた穴が・・・。

穴を逆さにして、手の平にポン

ポンと落としてみる。

 

小さな青い物がポトリと落ちた。


あああああ・・・・

この色は完璧にホソツヤの♂!


  
ついに1ペアゲット!!

  
    

これはどうみても真性ホソツヤ!

やっぱり、コレだ!

純粋なホソツヤ材を狙うべし!

木の股に挟まった枯木の先っぽ

を削る うめちゃん。

ここでうめちゃん、ついに1♂を

割り出す!

 
びおすけも 「先っぽ系」に狙い

を定めて集中攻撃開始。

 
だけど、幼虫しか出なかった・・。

 
その後、びおすけは追加できな

かったものの、うめちゃんが

5頭(!)追加に成功した。


うめちゃん、さすがです・・・。

   
うめちゃんの採ったホソツヤは、

びおすけが採った1ペアと同じ

特徴を持つホソツヤと全て同じ

であった。つまり真性ホソツヤ。


・・・という事は昨日採った♂は?

一体、何ルリなのだ??

   


   
ここで今回問題の個体を比較検討してみよう。  

  
真性ホソツヤルリクワガタ 問題のルリクワX 比較用トウカイコルリクワガタ
5/6 びおすけ採集 5/5 びおすけ採集 他産地個体
     
比べた瞬間目に付くのは、ルリクワX の前胸背の大きさである。実際の体長は真性ホソツヤよりも

ひとまわり大きい。体表面の光沢はかなりある方ではあるが、真性ホソツヤの滑るような光沢には

及ばない。これは体表面の点刻が真性ホソツヤよりも多いためである。また、真性ホソツヤの上翅

がパラレルなスマートさに比べ、ルリクワX の体型は下ぶくれの様相を呈している。これらはまさに

比較用トウカイコルリと同じ特徴である。ただ、比較用トウカイコルリと比べて体の厚みがあるが、

これは体の大きさに比例して厚くなっているものと思われる。

  
次に頭部・胸部の比較をしてみよう。

  
■真性ホソツヤルリクワガタ


@大あご外縁基部が強く湾入
  する。

A頭部は小さく、点刻が少ない。
  また複眼間はやや膨隆する。

B前胸背の幅は肩部の幅よりも
  明確に狭まる。また縁取の
  幅も狭い。

C前胸背後角は角ばるが突き
  出さない。
   
■問題のルリクワX


@大あご外縁基部は湾入しない。

A頭部は幅広く、点刻が多い。
  また、複眼間はほとんど膨隆
  せず、平たい。

B前胸背の幅は肩部の幅と同等
  程度。縁取りは幅広い。

C前胸背後角は角ばり突き出す
 
■比較用トウカイコルリクワガタ


@大あご外縁基部は湾入しない。

A頭部は幅広く、点刻が多い。
  また、複眼間は膨隆せず、
  平たい。

B前胸背の幅は肩部の幅よりも
  若干狭い。縁取りは幅広い。

C前胸背後角は角ばり突き出す

  

以上の比較検討の結果、その特徴から問題のルリクワXは、「トウカイコルリ」と同定できる。

この事から、今回の場所には少なくとも「ホソツヤルリ」「トウカイコルリ」の2種が生息して

いると考えられるのだ。

問題のルリクワが採集された朽木の状況を考えれば、まさにコルリ材であって、その材から採集

された種類がコルリであるのは当然の事なのだ。よって、純粋なホソツヤ材ばかりを狙っていた

うめちゃんはコルリらしきものを採集していない。


全ては「ここにはホソツヤしかいない」というびおすけの勝手な思い込みから始まった、今回の1件

であった。


あとは採集した幼虫を飼育し、うまく成虫となれば更なる証となるであろう。

   
飼育ケースにおさめた幼虫。


うまく羽化までもっていけるか?

結果が楽しみである。 


今回はいろいろな意味でとても

勉強になった採集であった。
 

  
    


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